森下典子さんのベストセラー『日日是好日(にちにちこれこうじつ)』。
お茶のお稽古をとおして成長する一人の女性(森下さんご自身)の物語で、映画化もされた作品でした。
読後、私もお茶の世界に興味津々になったのは、つい最近のこと。
好日日記
そしていま、その続編にあたる『好日日記(こうじつにっき) 季節のように生きる』を読んでいます。
前作もほっと心温まるエッセイだったのですが、今回もなんとも素敵な作品。
特に、二十四節気それぞれに分けられた、コンパクトな章立てが読みやすく、すっと世界に入りやすくなっています。
主人公である森下さんが、年を重ねてよりリラックスしてお茶と向き合う様が印象的。
そしてなにより、全編にただよう、日本の四季の美しさといったら!
私たちの生きている日本って、こんなに儚い景色、瞬間の連続なのだと改めて思い知らされます。
季節の移ろいは、ぼーっと生きていると、そばにあれど簡単に見過ごしてしまうもの。
「はて、あの雪景色はマボロシだったのか?」
そういえば、私も毎年春が訪れると、そう思ってしまいます。
ほんの少し前までは、あたり一面、白黒の世界だったのに、しばらくすると、日に日に気温が上がり、日中は汗ばむ陽気になってきました。
啓蟄
今年の啓蟄(けいちつ)のはじまりは、今日3月6日。
啓蟄とは、二十四節気のひとつで、「冬眠していた生きものが、活動を開始する頃」です。
では、本書の啓蟄の段からすこし拝借。
不思議なことに、毎年この時期、わが家の玄関を開けると、生温い水の匂いがする。そんな日は、物置に積んだ植木鉢の陰から、のっそりとヒキガエルが姿を見せる。そんな時、二十四節気とわが家の季節がぴたりと重なる。
『好日日記』森下典子 より
昼過ぎ、まだ強い風の中、稽古に行った。
縁側に正座し、つくばいで手を清めようと戸を開けた途端、まぶしさに驚いた。つくばいの水面で光が躍っている。
チョロチョロチョロ……。
筧の先から細く流れ落ちる水音も、今日はとても柔らかく聴こえる。
『好日日記』森下典子 より
春を感じた瞬間の胸の高鳴りが、みずみずしすぎて、まぶしい!
おじさん、感動しました。。
これまで二十四節気についても良く知らなかったので、すこし調べてみると、この「啓蟄」も3つの段階があるといいます。
初候 → 次候 → 末候
まず、3月6日~9日は「初候」にあたり、「蟄虫啓戸」と書いて「すごもりのむしとをひらく」と読むそうです。
冬ごもりしていた虫・動物たちが目をこすりながら、のっそり起き上がり、それぞれに活動を始める様が目に浮かびます。
なんだかかわいくないですか?
さらに続く「次候」の「桃始笑」は「ももはじめてさく」と読み、最後の「末候」は「菜虫化蝶」と書いて「なむしちょうとなる」と読むのだそう。
なにこれ、不思議な体験。
もう字面だけで、目の前に広大なお花畑が広がるような、蝶が舞い、温かい風が吹くような、そんな感覚があります。
中国語由来の言葉ですが、それでも私たち日本人に組み込まれた琴線に響くものがあります。
なんだ、こんなに簡単に感動できるものなら、もっと日々のさりげない季節のうつろいを大事にしたいものです。
すごもりのむしとをひらく
ところで、本書で「啓蟄」から「春分」になった頃。
「柳緑花紅(りゅうりょくかこう)」というお軸に書かれた言葉ができてきます。
世の中に出れば、壁にぶつかることがたくさんあるでしょ。そういう時って、どうしても他の人が偉く見えるのよね。(中略) だけど、柳は花にはなれないし、花も柳にはなれない。花はあくまで赤く咲けばいいし、柳はあくまで緑に繁ればいいのよね。
『好日日記』森下典子 より
これは、お茶を教える立場になった、主人公の同級生の一言。
周りをいいないいなと羨んだり、自分を卑下するより、自分の色を大切に過ごしていけばよいのだと、いうことです。
それぞれにやりたいことをやりましょう。
さて、冬眠から目覚めた虫のような私たちは、寝ぼけまなこで、次にどんな扉を開くのか?
新しい季節。思い切って、お茶の世界に足を踏み入れてみるのも良いですね。
おしまい≡⊂( ^-^)⊃♫
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