ギリシャ246kmの「スパルタスロン」、アメリカカリフォルニア州デスバレー217kmの「バッドウォーター・ウルトラマラソン」など、数々のウルトラマラソンで成績をおさめてきた超ウルトラランナー・岩本能史コーチの、「誰でも快走できる」ウルトラマラソン指南書。
最後まで読み終わった後、「よし!私もウルトラマンになる!」と意気込むか、「そんなの無理だー---っ」と本を投げ飛ばすかは、あなた次第。。。(笑)
著者紹介
『200km走って編み出した理論 岩本能史コーチの100kmマラソンは誰でも快走できる』岩本能史
著者の岩本能史(いわもと のぶみ)コーチのプロフィールはこちら。
1966年横浜に生まれ、2000年からウルトラマラソンに取り組み、スパルタスロン(ギリシャ 246km)完走7回、24時間走選手権日本代表4年連続選出(2004年~2007年)。2003年のスパルタスロンで6位(27時間23分)、2004年24時間走アジア選手権(台北)で2位(247・260km)など、ウルトラランナーとして世界レベルの実力を持つ。2011年アメリカカリフォルニア州デスバレーで行われた最高気温50℃超、217kmの耐久レース「バッドウォーター・ウルトラマラソン」を27時間30分48秒で完走し5位。ランニングチームclub「MY☆STAR」代表を務め市民ランナー指導者としても一戦で活躍。
『200km走って編み出した理論 岩本能史コーチの100kmマラソンは誰でも快走できる』岩本能史 著者紹介より
本書は2012年発行のもので情報は少し古いのですが、現在もご活躍中とのことです。
また、「answer600」という独自のレース前特化型補給アイテムの販売も行っているそうです。
効率の良い補給に興味があるので、私もこれから試してみようと思っています。
ウルトラマラソンビギナーに向けて
私も数年前から100kmのウルトラマラソンに挑戦し始め、何か参考になる書籍はないかなと調べていたのですが、これが本当に数が少ない。
今でこそネットやYouTubeで学べる機会は増えてきましたが、それでも体系立ててウルトラマラソンを学べるものはなかなかありません。
そんな中、本書はウルトラマラソンビギナーが知りたい知識・技術・アイテム・トレーニング法が過不足なく網羅されているので、ウルトラマラソンが全く初めての方には、ぜひ走る前に本書の一読をおすすめします。
特に、第一章~第四章は参考になる部分が多いです。レースに向けて、どんな練習をしたら良いのか、レース中にどんなことに気を付けるのか、用意するアイテム、などなど。
岩本コーチの理論・理屈に基づいたアドバイスは、多くのランナーさんに参考になると思います。
ウルトラマラソン中級者に向けて
100kmのウルトラマラソンを数回完走した経験のある私は、自称ウルトラマラソン「中級者」です。
初心を忘れず奢らないという前提で、そういうことにしておきます(笑)
そして本書の中で、中級者の私が参考になったトピックは以下のとおりです。
- トレーニングの秘策「F2.7」の公式
- 「路上にいる時間」が大切
- 「脳」の疲労対策は不可欠
- 「補給」は100kmレースの生命線
- レースシューズの選び方
- 「すれ」対策が重要
ひとつ面白いトレーニングとして、「日中すべてを路上で過ごす」ことを挙げています。
早朝にスタートし、日没が制限時間というパターンが大半の100kmマラソンは、考え方を変えると「日中をすべて外で動き続けた、ある一日の過ごし方」とも言えます。レース中、食事もとりますし、トイレにも行きます。この「路上で過ごすトータルの時間」を、「非日常」的な感覚ではなく、いかに「日常」的な感覚にできるかが、100kmマラソン用の練習として重要なのです。
『200km走って編み出した理論 岩本能史コーチの100kmマラソンは誰でも快走できる』岩本能史 第一章より
ともすれば、ウルトラマラソンの練習だから、できるだけ長い距離を「走らなければならない」と思いがちですが、実はそうでもないのだと。
ポイントは、走っていないときに、立ち続けているか、歩き続けていること、ということで、アクシデントが起こった場合を除き、座らないこと。
そうすることで、100kmマラソンでレース時間中に動き続けられる身体能力が養われるのだといいます。
まずは日常生活、外出時にはできるだけ座らないよう、立って歩き続ける練習を習慣化すると良いのですね。
ウルトラマラソンを走ったことがある者としては、目から鱗のお話でした。
他にも、ありきたりな「ウルトラマラソン、かくあるべし」のような内容だけでなく、岩本コーチの独特なマラソン観(失礼!)が全編からにじみ出ています。
コーチはシューズについては「厚底シューズ信仰」に異論を唱えています。
理由はいくつか挙げられていますが、フルマラソン以上の距離のレースでも、薄底のシューズで走っても問題はないといいます。
なるほどー。
少なくとも私は厚底の「On」を履いていたからこそウルトラマラソンの完走ができたと思っているので、薄底で同じ距離をどれくらいの結果で走れるか、試してみたい気もします。
また、ランニング中の「すれ」対策として、ちゃんとお尻の穴もワセリンでケアしよう、というくだりは、私も実体験からも大賛成で、よくぞ書いてくださいましたと言いたいです(笑)
冗談のようですが、これ本当に大事ですからね!
ウルトラマラソンで満たされる「変身欲」
本書の中で、私が最も共感できたのが、ウルトラマラソンで満たされるのは「変身欲」だということです。
岩本コーチの体験でも、過酷なレース完走後に手にする完走賞やメダルは、ご自分の思っていたような一生ものの宝にはならなかったと言います。
そういったかたちある「モノ」より、その何百倍もの価値のある「事実」を手に入れたことで、「モノ」への執着がなくなったのだと。
私たちウルトラマラソンを走りたいと思うランナーにとって、そのモチベーションの根底にあるのは、「物欲」ではなく、「変身欲」なのです。
変身するというと「新しい自分に生まれ変わる」というように思うかもしれませんが、私は、そうではなく、もともと自分の中に備わっていながら表に引き出されないままだったものが、努力の継続や困難の克服によって初めて表面に現れた現象だと捉えています。(中略) 変身欲は、物欲よりもはるかに成就しにくく、だからこそ、変身欲を満たせたときに喜びや感動は大きいものです。
200km走って編み出した理論 岩本能史コーチの100kmマラソンは誰でも快走できる』岩本能史 第五章より
ウルトラマラソンは、この変身欲を満たす手段のひとつとして、多くのランナーを魅了しているのでしょう。
私も、ただの普通の会社員だった自分が、普通に生きていたら人生で走ることのなかったはずの100kmという距離を、走破することを経験しました。
ですが、100kmを走った後、手にしたメダルはにはまったく執着がもてませんでした。
「もしかすると、ここから自分はもっと変われるかもしれない」
そう思ったのは、またむくむく「変身欲」が膨らんで来たからなのでしょう。
私はここからさらに、200km以上のレースを走りたい、と夢見ています。
自分の走る欲が何なのか?本書の中でヒントを見つけることができました。
※第五章に注意!!
最後にひとつご注意!
本書は「100kmマラソンは誰でも快走できる」とタイトルでうたっていますが、ビギナーの方は、最後の第五章を読むのは気を付けてください。
2011年の「ランナーズ」10月号の座談会の抜粋があります。
こちらは2010年の「バッドウォーター・ウルトラマラソン」に参戦した岩本コーチと、「走るドクター」亀井智貴さん、48時間走世界選手権優勝の関家良一さん、3名による対談です。
そのお話の内容たるやすさまじく、読んでいて背筋が凍ります(笑)
カリフォルニア州デスバレーの過酷な気象条件、ランナーのリアルな体調の変化、奇怪な幻覚の話。。
いないはずの白い犬が見えるだの、猫の声が聞こえるだの、怖すぎて震えます。。
こんなレースに挑戦しようとするレベルの方々の「変身欲」は、さすがに突き抜けていますね。
ウルトラマラソンビギナーさんは、やる気をなくして本を投げ出さないようにしてください(笑)
おしまい