私のバイブルともいえるドラムの教則本。これが声を大にしたいくらい、すばらしい本なのです。
一般的な楽器の教則本とは一味も二味も違うこの一冊、ながらく楽しんでいます。
人気曲が盛りだくさん
森谷亮太『ドラマーが夢中で叩きたくなる人気曲レシピ 改訂版』(2022年発刊)
人気のドラム講師の森谷先生のドラム教則本で、こちらは「改訂版」です。
練習曲のラインナップはこちら。
- マリーゴールド / あいみょん
- 全力少年 / スキマスイッチ
- HANABI / Mr.Children
- 紅蓮花 / LiSA
- 小さな恋の歌 / MONGOL800
- 千本桜 / 黒うさP
- 完全感覚Dreamer / ONE OK ROCK
- 紅 / X JAPAN
- チョコレイト・ディスコ / Perfume
- 女々しくて / ゴールデンボンバー
- うっせぇわ / Ado
- Pretender / Official髭男dism
- 夜に駆ける / YOASOBI
- だから僕は音楽を辞めた / ヨルシカ
- ルパン三世のテーマ’78 / 大野雄二
- パプリカ / Foorin
- 丸の内サディスティック / 椎名林檎
- 白日 / King Gnu
スタンダードな名曲から最新曲までずらり。どれもドラムで叩いて楽しそうじゃないですか?
これら18曲が「8ビートが使われている曲」「速い曲」「ダンスビートが使われている曲」「16ビートが使われている曲」「ハネ系」の4カテゴリに分類されています。
ふだんドラムに着目していなかった曲も、改めて聴いてみると、こんなことやってるんだと新たな発見があります。
また、どの曲もオリジナルの尺ではなく、1コーラス半にアレンジされているので、約3分程度になっています。何度も繰り返し練習するにはちょうど良い長さ。
さらにさらに、模範演奏のサンプルの曲のクオリティがすごい。
女性ボーカル曲を全曲担当した歌手の「ヲタみん」さんの声が変幻自在でオリジナルのボーカルを知っていても自然と入ってきます。男性曲も「紅」や「完全感覚Dreamer」、「Pretender」など、違和感ありません。すごいなー。
これ、ふつうだったらオリジナルボーカルでなかったら練習していて気が散ると思うのですが、全然そんなことがありません。それぞれの曲の雰囲気を損なわない絶妙な歌い方が素晴らしい。
むしろヨルシカさんの「だから僕は音楽を辞めた」は私は初見(初聴?)だったのですが、ヲタみんさんのボーカルがそのままフィットして、これがオリジナルだと思って聴いています。(ヨルシカさんファンのみなさん、すみません)
男性ボーカルの「光永泰一郎」さん、「うどんタイマーP」さんも上手。それぞれスキマスイッチの大橋さん、ミスチルの桜井さんに寄せた歌声で、初見だったら「ご本人?」と思ってしまいます。
あまりにもどの曲も素晴らしいできなので、この音源だけでも心地よくてずっと聴いていられます。
充実のサポート
これらの人気曲で「この曲叩いてみたい!」と意気込むも、初めはなかなかとっつきにくい曲もあります。
そこでこの本ではドラマーが途中でつまづかないような手厚いサポートが、従来の教則本とは比にならないくらいのレベルで充実しています。
各練習曲の前段階の練習ページでは、4つの小さなパートが用意されています。
- 「基礎リズムパターン」 … 曲中のリズムパターンの練習
- 「基礎フィルイン」 … 曲中のフィルインの練習
- 「エクササイズ」 … その曲を叩けるようになるための練習フレーズ
- 「練習パッドフレーズ」 … ドラムパッドを想定した練習フレーズ
特徴的なのは、「基礎リズムパターン」「基礎フィルイン」のパートの表記の仕方です。
一般的なドラム譜とあわせて、より分かりやすい「ブロック譜」と、フレーズを擬音で表現した「口ドラム」が記載されています。
「ドチタチ」のような口ドラムは、他の教則本もあったことはあったのですが、それと1拍を4つのブロックで区切ったブロック譜をあわせて表記することでタイミングがよりわかりやすくなっています。
これは画期的。手順をひとつひとつ確認しながら納得して前に進むことができます。
さらに、スマホやタブレットで紙面上のQRコードから動画を観ることができるのですが、特筆すべきは、その動画の数。
なんと上の18曲+αに対して全428フレーズすべてに動画が用意されているという圧巻の徹底ぶり。
ドラム譜入りカラオケ・演奏動画は自動スクロールなので、演奏中の視認性も考慮されています。これでもかというくらい、ご丁寧なこと。
これなら練習すれば好きな曲を叩けそうですね。(もちろん時間はかかりますが)
一見難しそうなリズムパターンやフィルインも細かく分解して手順を踏んでいけば、なんとなく形になりつつあります。
練習しながらしっかり手ごたえを感じるので、本当によくできたドラム教則本だと思います。
絶対に読むべきコラム
と、ここまではドラムの教則本としてのレビューだったのですが、私が推したいこの本のポイントは、ずばり「コラム」にあります。
ふつうコラムというのは本の各パートの合間にあって、息抜きのためのちょっとした小話、のような扱いです。
ところが、こちらの本のコラムは著者の森谷先生の真面目で熱い思いがこもっているため、思わず立ち止まってしまいました。
「わかる」とはどういうことか
「わかる人」は生まれたときから天性の才能があったわけではありません。似たような音を区別し続けることで、「わかる」能力を高めてきたのです。
森谷亮太『ドラマーが夢中で叩きたくなる人気曲レシピ 改訂版』
楽器を始めても、「わからないからついていけない」と投げ出す人は多いと思います。感性や才能がないことを理由にやめてしまうこと、私にも心当たりがあります。
ただ、「わからない」ことを「わかる」には、意識的に「区別」と「同定」(これは同じものだと理解すること)することが大事だといいます。
ドラムで言えば、太鼓やシンバルの音はそれぞれに異なりますし、叩く場所や素材によっても異なります。ただ、よくよく聞き比べてみると、これはスネアだなタムだなハイハットだな、と気づきます。
そういった音と音との区別と同定が、ドラムが「わかる」ことにつながるのです。そのためには、深く聴きこむことともうひとつ、「できる限り言葉にすること」を推奨しています。「このドラムは〇〇だからかっこいい」「△△だからつまらない」など。
特にぼんやり、なんとなく感じることを具体的な言葉にすることで、自分の気づきにつながるといいます。
まずは自分の好きな音楽をもう一度聴き込んでみる。そのとき発見した自分なりの気づきを消化し、表現する。それを繰り返すことで自分の個性となっていくのです。
森谷亮太『ドラマーが夢中で叩きたくなる人気曲レシピ 改訂版』
このように「わかる」ことが実感できれば、さらにモチベーションにつながるのは想像できますね。
嫉妬、劣等感をどうして感じる?
「嫉妬、劣等感」。教則本の中でこんなテーマが書かれているのは、見たことがありません。著者の森谷先生の体験から出てくるものなのでしょう。とても興味深いです。
音楽活動をやっている中で嫉妬や劣等感は誰しも感じるものです。
音楽歴が自分より下、同年代、年下、など、今の自分と同じような環境にいる人に嫉妬することが多いのです。
森谷亮太『ドラマーが夢中で叩きたくなる人気曲レシピ 改訂版』
自分よりも下だと思っていた人が、自分よりも上だと認めざるを得ないときに抱くのが、劣等感。
そういえば、私の高校の頃にクラスにいた、いじられキャラの男子が(いじめられてはいない)を思い出しました。
当時の私は「彼よりは私のほうが上」だと、何がとかどこがとか、なんの根拠も具体性もなく漠然と思っていました。ところが卒業して数年後、あるSNS上で、彼が「友達かも?」のように私のページに現れたので、興味本位で彼のやっていることをのぞいてみました。
すると、高校を卒業してから彼はドラムに打ち込んでいたということがわかりました。
当時の私はギターの才能がないといじけて卑屈になっていたところで、高校のときに地味だった彼が自分の好きな音楽というジャンルで開花しているのを知って、やり場のない気持ちを覚えました。
今思えば、彼も一生懸命に自分の殻を破りたかったのか、いろいろ考えてもがいていたことは想像できます。彼の努力は尊いと思いました。
それからというもの、ことあるごとに私は自分の好きなジャンルで輝いている人のことを羨望のまなざしを向けつつ、「あんな風にはなれない」とネガティブになり、しばらく音楽を離れていた時期もありました。嫉妬や劣等感とは、うまく付き合わないとどんどん落ちていってしまうのです。
森谷先生は嫉妬や劣等感との対処法を紹介しています。
- 思ったまま書き出す
- 他人にどう思われるかコントロールできない
- 比べるべきは他人ではなく過去の自分
それぞれ実に肚落ちします。
私も昔は自分のギターの演奏が思うようにできず、人前で弾くことをしてきませんでした。笑われたらどうしよう、落ち込むな、ごちゃごちゃ言われたら気分悪いな。そんなことを考えていました。
ところが、森谷先生の言うように、自分の演奏を「下手が」「素晴らしい」と判断するのは、聴く人の課題であって、私たち自身ではコントロールすることができません。操作できないことに気を取られている時間があれば、もっと練習するとか誰かに習うとか、方法はいくらでもあるはずです。
また、誰かと自分を比べることもあまり意味がないということも納得です。楽器を練習し始めた出発地点も過程も違う他人と今の自分と比べたところで空しいだけ。
それより、昨日の自分と比べてほんの1ミリでも成長できたら、それでじゅうぶんだと思います。SNSを自分の成長の記録をとるツールとして使う、というのもありですね。
これらのコラムは楽器初心者のみならず、何かに打ち込もうとするすべての人に刺さる内容だと思います。私もがぜん勇気がわいてきました。
ドラムひとり遊びを、こころゆくまで
タイトルにもある「ドラムひとり遊び」という言葉が響きました。
ただ独りでドラムをドチタチしているだけで、いつの間にか練習に没頭してしまい、時間を忘れてしまいます。
時間はかかりますがひとつひとつ、こつこつひとり遊びで練習して、レパートリーを増やしていければ良いですね。それがきっと自信につながるはずです。
こちらの教則本、ワタクシ2022年に購入し、長らく参考にさせていただいています。改めてこの本とは長いお付き合いになりそう。
まちがいなく、全ドラマーさんに迷わずおすすめの1冊と言えます。
おしまい≡⊂( ^-^)⊃♫