【ミニマリズム】ショートショート 不用品

男は家を片づけていた。
家具を売り、服を処分し、本はすべてデータ化した。棚も机もなくなり、部屋は真っ白な壁と床だけになった。

「これでようやく、完璧なミニマリストだ」
男は満足して、まだ残していたベッドに横になった。

その夜はひどく快適に眠れた。余計なものに囲まれていないせいか、いつもより呼吸も軽い気がした。
ところが翌朝、目を覚ますと、彼はベッドが邪魔に思えた。部屋の真ん中に大きなかたまりが鎮座しているのが、妙に気になる。
「床で寝れば十分じゃないか」
そうつぶやき、ベッドを捨てた。部屋はさらに広々とした。

次の日は冷蔵庫に目がいった。
「スーパーもコンビニもある。必要ないな」
処分した。

そのまた次の日はスマートフォンだった。
「電話もメールも、どうせ大した用件じゃない」
契約を解約し、手放した。

男はどんどん軽くなっていく気がした。
彼の部屋は、ただの空間になりつつあった。

やがて、服すらいらないと思うようになった。
「究極の自由だ」
そうつぶやき、男は裸のまま窓の外を眺めた。

そのとき、玄関のドアを強く叩く音がした。
「通報がありまして」
警官が立っていた。事情を話す間もなく、男は連れて行かれた。

留置場には、ベッドと毛布とトイレがあった。
久しぶりに横になるベッドは、思いのほか心地よかった。
毛布は柔らかく、トイレがそばにあるのも便利だ。

「やっと落ち着ける」
男は心から安心した。


ミニマリストを星新一さんぽく描いてみるとこんなかんじでしょうか。

おしまい≡⊂( ^-^)⊃♫

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