ミニマリストが主人公の小説。
Twitterで、ミニマリストこんさんが紹介しているのを見かけて面白そうだと思い、読んでみました。
最後まで何が起こるかわからない展開で、あっと言う間に読了です。
いただきモノの苦悩
ミニマリストとは、自分にとって本当に大事なモノだけを持って暮らすライフスタイルを選ぶ人のこと。不要なものは極力捨てたり、排除したります。
主人公はステレオタイプなミニマリストとして描かれており、読んでいると自分の心の中を覗かれているような感覚がありました。
主人公が人からもらったものを自宅に帰ったらすぐに捨ててしまうシーン。
どうせ捨てる物を手元に置き、捨てる罪悪感がなくなった頃に捨てるのではあれば、罪悪感を覚えながらすぐ捨ててしまったほうが、くれた人や物のためにも良い。痛みをともなう行為は記憶に残るため、その物が浮かばれるし、無用に手に入れたりという同じ過ちを繰り返さないよう、気を付けるようにもなる。
羽田圭介『滅私』
(ワイングラスを贈られて)箱から出さずにこのまま売ったりあげたりする考えが頭をよぎるが、はたしてこれを大事にする人がいるだろうか。一時的に使ったとしても、そのうち捨てて、買い換えると思う。
羽田圭介『滅私』
捨てを先送りにしても意味がない。どうせ捨てるこの物の生殺与奪を他人任せにするのは、甘えだ。せめて捨てる痛みを自覚し、己の手で迅速に処分すべきだ。
羽田圭介『滅私』
主人公はかなり極端なミニマリストとして描かれていますが、それでもおおいに共感できるところがあります。
個人的にもモノを増やしたくない生活の中で、一番気が重いのが、人からモノをもらうこと。
最近はモノをいただいても、嬉しいという気持ちより申し訳なさが前に出てきます。
わざわざ自分のために時間とお金と使ってもらって悪いな、でもモノはいらないな。。
これが食べたり簡単に消費できるモノであれば手放しで喜べるのですが、カタチあるものはできるだけ丁重にお断りしたい、というのが正直なところです。
受け取ったモノをなかなか捨てられずにいる私にとって突き刺さる、痛いシーンでした。
ちなみに私に何かプレゼントしたいという奇特な方はこちらを参照ください。
捨てる人と捨てない人
主人公の男性と付き合っている彼女は、ミニマリストとは真逆のモノを捨てない人。
一見相反する生活スタイルの二人が、実は似た者同士だといいます。
物を捨てるのに目覚めた人たちの大半は、“己の幸せを物に頼っていた”という過去をもつ。表裏一体なのだ。目に見える状態が違うだけで、捨てまくる僕(主人公)と買いまくる時子(彼女)は、本質的に似ている。
羽田圭介『滅私』
彼女のクローゼットは、買いためた服ではちきれんばかり。
ですが、このようなモノを捨てない人が、いざ自分の生活環境を変えたいと思った時こそ、捨てることにハマりやすいといいえます。
わたしたちミニマリストもかつては捨てられなかった人。
何かのきっかけで人の生き方は、天地がひっくり返るほど変わってしまうのです。
ミニマリストの多様性
作中では、典型的なミニマリスト像の描写がありつつ、その多様性についても触れられています。
できるだけ物を持たない生活を志向する人たちの中にも、色々な流派がある。最終的にはトランクケース一つ分の所有物で生活したい派、ベッドやソファー等の大型家具を持っているが、所有物の点数自体は少ない派、自宅に物は少ないだけで実家やトランクルームには物を沢山置くのを良しとする派、洗濯機等を持たず家事に時間を浪費することを厭わない最小限物質主義派、ペットに依存する派とペットにふりまわされたくない派……様々なこだわりを組み合わせ、個々人により差異化がはかられている。
羽田圭介『滅私』
メディアで揶揄されるような、ありきたりなミニマリスト像だけではなく、実はミニマリストが多様性に富んだ人種であることに言及しています。
このくだりで、著者はよくミニマリスト周辺を調べて物語を書いているのだなと関心しました。
私自身も、自分が通り一辺倒のミニマリストだとは思っていません。
色は白黒だけが好きなわけではないし、パソコンもMacではない。
自宅には二人掛けのソファやドラムセットなどの楽器が鎮座しています。
ですが、それが我が家のミニマルスタイル。
はじめは誰しも教科書通りのミニマリズムの道を踏み出します。
その中で、自分にとって大事なもの取捨選択していくと、「少数精鋭」が手元に残っていくのです。
我が家の場合、見た目も座り心地も気に入っているソファと、いつでも音楽を楽しめるキーボードやドラムがまさにそれにあたります。
何を「少数精鋭」とするかは自分しだい。
一見みんな同じように見えるミニマリストも”みんなちがって、みんないい’のです。(by 金子みすゞ)
わりとそのあたりは緩いんですよ、こっちの世界は。
よければ、ぜひお越しください。。
羽田さんと聖飢魔Ⅱ
この作品、そんな主人公のミニマリストが、自分の過去を振り返ることがきっかけで思いがけない方向に展開していくお話です。
ぼんやり読んでいたら、最後にがばっとすべてを持っていかれますので、ご興味のある方はぜひご一読を。
ちなみに私は冷や汗をかいて読了しました。
さて、最後に余談です。
著者の芥川賞作家・羽田圭介さん。実はあのヘヴィメタルバンド「聖飢魔Ⅱ」の大ファンだということを知って、より親近感がわきました。
ちなみに界隈では、聖飢魔Ⅱファンのことを「信者」と呼びます。
羽田さんは信者であることを公言していたので、なんと地球デビュー30周年ツアーの再にメンバーとお会いできたそうです。
羽田さんが聖飢魔Ⅱと出会ったのが2004年、偶然CDを手に取ったことがきっかけだったそうですが、実は私も同時期に同様のきっかけで聖飢魔Ⅱにハマりだしたのです。
未だに色眼鏡で見られることが多いこの聖飢魔Ⅱ。実はめちゃくちゃ本格的なヘヴィメタルですからね。現存するレジェンドメタルの雄です。
そういえばしばらく聖飢魔Ⅱの情報を追っていなかったので、最近どうしているんだろう?なんて軽く調べてみたところ、なんと最近ニューアルバムがリリースされるそうじゃないですか!興奮。
CDの初回特典版もあるそうですが、私はダウンロードで拝聴します。。
というわけで(?)、こんな思わぬきっかけを与えてくれた羽田さんの次回作もぜひ読んでみたいと思います。
おしまい。