【ひと夏の思い出】back number「高嶺の花子さん」夏の魔法の結末

ちょっとこの話は恥ずかしくて妻には見られたくないんですが、夏と言えば思い出す人がいます。

そのKさんと出会ったのは2013年4月のこと。

職場の新卒として入社してきたので、彼女の年齢は23歳でした。

私は当時、社内ではちょっとしたカメラマン役を任されていて、何かイベントがあれば写真を撮るために駆り出されていました。(前職は観光写真業)

4月1日、私は毎年恒例の入社式の写真を撮ることになっていました。

その年の新入社員はKさんを含めたフレッシュな3人。

私ははつらつとした3人の写真を撮りつつ、「写真担当の〇〇です、よろしくお願いします!」と自己紹介したところ、Kさんが笑顔で応えてくれたのが印象的でした。

その当時の私はというと、31歳、仕事は4年目。なんとなく慣れてきたものの、役職もなくごく平凡なサラリーマン。

今でこそマラソンマラソン言ってますが、その頃はかなり適当に走っていたので趣味として誇れるものでもありませんでした。つまり中途半端。

恋愛はというと、絶賛モテないロードを爆走中。本当にご縁がありませんでした。

いや、そもそもご縁を自らつかむチャンスを諦めていたのかもしれません。

今となって思えば、本当にモテない要素満載だったなと、痛いなと思いますが、当時はひたすら卑屈になっていました。

もともと引っ込み思案で人見知りな私。大人になっても自然とそれが解消することもなく、依然として人の目を気にしてコソコソしていました。

ただ、変なところで思い切って、30歳前後は相当な数のコンパを経験しました。1年で数十回参加しつつ、時には1日2回ハシゴしたこともありました。

ところが、そこは生来の人見知り。お酒の席でぐいぐい前に出ることができません。結果、どんなに場数を踏もうとも、女性と仲良くなるチャンスをつかむことができませんでした。

31歳、そんなこんなで独りで疲弊していじけていた時に出会ったのが新入社員のKさんでした。

彼女の性格は、じめじめとした私と真逆、からっと夏の太陽のように明るく、笑顔がとてつもなくかわいい。その笑顔を前にすると、暗い私はおもわずひるんでしまいました。

Kさんは社内でもおどけたり変顔をしたり、なんというか、通り一遍の「かわいい子」ではなく、ちょっと面白い元気な女の子、という印象でした。

見た目はちょっとぽっちゃりしていましたが、それも健康的でよいなと思いました。

しかも、ただかわいい面白いだけではなく、ちゃんと礼儀をわきまえて、真面目で誠実、そんな面もあるのがとても素敵で魅力的だなと感じました。

そんな自分とはまったくカラーの違うKさんに衝撃を受け、出会って間もないのに自分の中の気持ちが膨らむのを感じました。

「Kさんが好きだ。付き合いたい。」

そう思うに至るまで時間はかかりませんでした。

ただ、当時の私は今よりもっと世間体だとか人の目を気にする性格でした。

その気持ちをかかえてうじうじ悩む時間の長いこと長いこと。

6月梅雨の時期。じめじめとした汗ばむ日が続きます。

そんな悶々とした中で気になる曲が聞こえてきました。

それが、人気バンド「back number」の「高嶺の花子さん」でした。

初見はなんともふざけたタイトルだなと思ったのですが、ちゃんと聴いてみると一瞬で胸をえぐられました。その破壊力は、すごい。

中華風なイントロから始まり心地よいドラムの四つ打ちのリズム。いわゆるダンスビートでノリノリなのですが、その歌詞にボーカル清水依与史さんの天才っぷりを感じました。

君から見た僕はきっと ただの友達の友達

たかが知人Bにむけられた 笑顔があれならもう 恐ろしい人だ

back number 「高嶺の花子さん」作詞:清水依与史

この曲の歌詞がその時の自分の状況とぴたっとはまり、他人事ではない気持ちになりました。

誰かに思いを見透かされているような、背中がひやっとするような、あの感覚。

この曲を聴いて感じたこと。

Kさんにとっても私はただの会社の先輩のひとり。こんな私にすらあの最高の笑顔を振りまいてくれるなんて、なんて罪な人だ。。。なんて思っていました。

自分の状況を考えても、私にとってKさんは「高嶺の花子さん」だなと勝手に納得する始末。

君を惚れさせる 黒魔術は知らないし 海に誘う勇気も車もない

でも見たい となりで目覚めて おはようと笑う君を

back number 「高嶺の花子さん」作詞:清水依与史

私は低身長、独身だけどお金もない、車も軽自動車。

31歳の男性が23歳の女子にアピールできるものなど、何もない状態に絶望を感じました。

今となっては全然気にすることないんですけどね、悩みの渦中にいる人にとっては切実だったと思います。

何もできないのだけど、「となりで目覚めておはよう」と言える関係を目指そう、なんて、都合の良いことばかり考えていました。

会いたいんだ 今すぐその角から 飛び出してきてくれないか

夏の魔物に連れ去られ 僕のもとへ

生まれた星のもとが 違くたって 偶然と夏の魔法とやらの力で

僕のものに なるわけないか

back number 「高嶺の花子さん」作詞:清水依与史

何か大きな力と偶然で、なんとか自分のモノにならないか。。そんな他力本願の構えでいても状況は変わりません。

わかっている、わかっているけど、なかなか、ね。。

歌詞の「僕のものに なるわけないか」の部分が、諦めとも希望ともとれるニュアンスがあり絶妙です。

そして私の妄想は深まります。

君の恋人になる人は モデルみたいな人なんだろう

そいつはきっと 君よりも年上で

焼けた肌がよく似合う 洋楽好きな人だ

back number 「高嶺の花子さん」作詞:清水依与史

就職も決まった23歳の女の子にとって人生はこれから始まると言っても過言ではありません。

きっと今から仕事に恋愛に楽しい人生を送るんだ。

Kさんは明るく活発な子だから、きっとこれから付き合う男性も同じようなタイプなのかもしれない。

ぐいぐい引っ張ってくれる人が良いのかな?

身長が高い人のほうがやはり良いのだろうか?

そもそもいるかどうかも分からないKさんの彼氏候補の想像を膨らませてしまいます。

ここまでくると、完全に頭の中の独り遊びでループが止まりません。

キスをするときも 君は背伸びをしている

頭をなでられ君が笑います 駄目だ何ひとつ 勝ってない

いや待てよ そいつ誰だ

back number 「高嶺の花子さん」作詞:清水依与史

想像しなけりゃいいのに、いかんいかんとかぶりを振ります。

そうだ、何もないけど、行動を起こすしかない。

別に何も失うものはないし、守るものもない。

月並みだけどあたってくだけろ、しだいにそんな気持ちになりました。

ある日偶然、Kさんと音楽の趣味が合うことが分かりました。

彼女はhydeさんの「VAMPS」やyasuさんの「acid black cherry」が好きということで、私はもともと「L’Arc~en~Ciel」や「Janne Da Arc」が好きだったので、音楽性の共通項が見つかりました。

彼女はライブに行くのも好きだというので、ぜひ今度いっしょに行きましょうねという話もできました。

Kさんは会社の先輩に対する社交辞令のつもりで言ったのかもしれませんが、私としては飛び上がるくらい嬉しくて、「これだ!」と感じました。

気持ちの悪い私は、もっとKさんと連絡を取りたいと思いました。

当時はLINEがなかったので、FacebookのDMで勇気を出してメッセージを送りました。

優しいKさんはすぐに返事を返してくれて、しばらくはDMで好きなバンドや曲をあれこれ紹介するようなやり取りをしていました。

そのうち、話の流れで「一緒にカラオケに行こう」ということになり、私は有頂天になりました。

これは一歩を踏み出したのでは?

2人だけで会う第1回目の日。当時できる最大限のおしゃれをして(今思えばめちゃくちゃださい服)、彼女の自宅に紺色のダイハツ・ミラジーノ(軽自動車)で迎えにいきました。

Kさんはプライベートでも明るく優しく礼儀正しく、会社で会うイメージそのまんまで、私は助手席に彼女が座ってくれているだけで幸せな気持ちになりました。

このまま時間が止まればいいのに。。。

2人で思いっきりカラオケでそれぞれに好きな歌を歌って、軽く食事をして、その日は無事に自宅に送り届けました。当たり前か。

また良かったら遊ぼうね。最後にそんなことを言ったか言ってないかは覚えてませんが、よし、やったぞ私。自分をほめてあげたい気持ちになりました。

先走ってないぞ、余計なことは言ってないぞ、我慢したぞ、よくやった私。。。

女子と二人で遊ぶことに極度の緊張を感じていたのは、もしかしたらKさんには伝わっていたかもしれません。

彼女は今日のことをどう思っただろうか。

会社で女性スタッフと笑い話にでもするだろうか。

Kさんの性格から、そんなことはしないとわかっていつつも、なんとなくまだ卑屈な自分がいました。

それからというもの、ちょくちょくDMで連絡を取り合っていました。

そして2013年8月8日

会社の企画で、取引のあるお客様方と社内のスタッフと富士山を登ろうというものがありました。

ちょうど富士山がその年の6月に世界遺産に登録されたこともあり、目玉企画となっていました。

私もせっかくの機会なので手を挙げたのですが、見ると例のKさんも参加するということでした。

旅の道中、私は写真係だったので、他のお客様の写真を撮りつつ、彼女の写真もパチリ。

元気に山を登っているKさんの姿にうきうきしました。

ところが山頂に近づくにつれ、Kさんが高山病で具合が悪くなったと聞きました。

私は先に行くグループにいたので心配していましたが、その後なんとかKさんも登頂できました。

そこで、素晴らしいご来光を目の当たりにしました。

神々しい日の出に、心が洗われるよう。

ふだんウジウジ悩んでいた自分が本当に小さな人間だなと思える景色でした。

そして、ここでなぜか気持ちが固まりました。

Kさんに好きな気持ちを伝えよう、付き合ってほしいと伝えよう。

ご来光の力?かよくわかりませんが、身体の中からふつふつと気力が沸いてきました。

そして登山は、スケジュールがタイトな中なんとか全員無事に下山し帰路につきました。

予定よりだいぶ遅れたため、お風呂に入ることができず、参加メンバーは皆早く帰りたい、、のムードが漂っていました。

夕方、会社でいったん解散し、そこから私は同僚とKさんを車で送ることになりました。

計算はしていませんでしたが、先に同僚を下してKさんと二人になった私は、あろうことか、「どこかご飯でもいかない?」とKさんに提案するという暴挙にでました。

普通なら早くお風呂に入りたい、帰りたい、だと思いますが、なんとKさんは快く「行きましょう!」と応えてくれました。

あー、もういい子すぎるわ!!

もう少し一緒にいたい、そんな気持ちが前面に出てしまいました。

そして私たちは色気もないチェーン店の定食屋さんで夕飯を済ませ、今度こそKさんの自宅へ送ることにしました。

ところが、なんとも往生際が悪い私。

もうちょっとだけ話がしたい、、とKさんを引き留めて、すこしドライブをしました。

この時の彼女の気持ちはどうだったのでしょうか。

登山をしてべたつく服、きっと一刻も早くお風呂に入りたかったのではないか。。

しかしその時の私はそんな気遣いもできず、Kさんに自分の気持ちを伝えるタイミングをはかっていました。

なかなか切り出せない。。。どれくらい時間が経ったか覚えていませんが、とうとう切り出す私。

「Kさん、僕と付き合ってください

私が本当にこの通り言ったのか、彼女の返事までどれくらいの時間がかかったのか実はよく覚えていません。

ただ、ふと我に帰ったら、私と付き合ってくれることになったということがわかりました。

そこからしばらくはなかなか実感がわきませんでした。

23歳の女子が、このさえない31歳の先輩から告白されて、普通付き合いますか?

いや、普通ってなんなんだろう?

私たちは普通ではなかったのか。

気持ちがどこかしら通じたのだから、それは気にしなくても良いのか?

考えることはたくさんありました。

こんなことを厳格な親御さんが認めてくださるのか?

会社の同僚に知られたらどうなのか?

まだ世間体や常識を気にして迷っていました。

ただ、それからお付き合いをする中で、Kさん自身がそんなことを気にしないおおらかな性格なため、徐々に私の気持ちも浄化されていきました。

共通の趣味である音楽も二人で楽しみました。コロナ前はライブにもたくさん行き、VAMPSやacid black cherry、L’Arc~en~Cielのライブにも参戦しました。

その後、Kさんは私のことを親御さんに紹介してくれ、Kさん家族から温かく迎えていただけました。

そして、ことはとんとん拍子ではこび、2015年8月8日、私たちは結婚式を挙げました。

今日、8月8日は妻となったKさんと私の結婚記念日

2016年に息子くんが生まれ、今では家族3人楽しく暮らしています。

付き合い始めた頃はぽっちゃりしていたKさんは、妻となってからは健康的に痩せ、よりきれいでかわいい奥様になりました。

私にはもったいない限り。。。なんて言ったらだめですね。

Kさんとはいつのまにか、「となりで目覚めておはよう」を言える関係になれました。

10年前のスレて悩んでいた私は、まさかその先にこんな未来が待っているなんで想像もしていませんでした。人の人生、わからないものです。

今も昔も、私には人に自慢できるモノは何もありません。

ただ、あの時、思い切ってKさんに思いを伝えたことで私の人生に光がさしたのは間違いありません。

結果をもたらしてくれたのが夏の魔法か魔物か今となってはわかりませんが、なけなしの勇気をもって踏み出して、本当によかったです。

彼女をこれからも大切にしたいと心に誓いつつ、あの時背中を押してくれたback numberの「高嶺の花子さん」を聴きなおす結婚記念日なのでした。

と書いているところで、Kさんと息子くん、そろそろ起きてくる頃かな?(^○^)

おしまい≡⊂( ^-^)⊃♫

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